単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズのご案内
一般的な白内障手術では、単焦点の眼内レンズを用います。単焦点眼内レンズは、その名の通り、遠く・中間・近くのいずれか1点にピントを合わせるため、それ以外は眼鏡を用いる必要があります。
一方、眼内レンズの進歩により、白内障手術を受けられる患者様に対して、より快適な視生活を提供するため、当院では最新の多焦点眼内レンズを取り扱っています。多焦点眼内レンズを使用することで、近くの物から遠くの物まで、さまざまな距離での視力を改善することが可能です。これにより、眼鏡やコンタクトレンズに頼らない生活が期待できます

単焦点眼内レンズ、多焦点眼内レンズの比較
種類 | 単焦点眼内レンズ![]() |
多焦点眼内レンズ![]() |
---|---|---|
ピント | ピントが合う距離が一つ 近く・中間・遠くのどれかを選択 |
ピントが合う距離が複数 |
見える範囲 | 見える範囲:狭い 手元・中間・遠くのどれかのみピントが合う 手術後眼鏡で調節が必要 |
見える範囲:広い 手元から遠くまで見える |
見え方の質 | いい | おおむねいい コントラスト感度が低下の可能性 |
保険 | 保険診療 | 選定療養 白内障手術の費用(保険適応) + 多焦点眼内レンズ等の費用のみ自己負担 |
多焦点眼内レンズとは?

多焦点眼内レンズは、異なる焦点距離を持つ複数のレンズ設計が組み合わさった革新的なレンズです。このレンズを使用することで、白内障手術後の視力が、近距離(スマートフォンや本など)から中距離(コンピュータの画面)や遠距離(運転や遠くの風景)まで見えるようになり、眼鏡の使用機会を減らすことが期待できます。
多焦点眼内レンズのメリット
1. 裸眼で遠くも近くも見ることができます
多焦点眼内レンズにより、裸眼で遠くも近くも見ることができるのが最大のメリットです。若い時から目がよく、遠くも近くも見えていた方、眼鏡やコンタクトレンズから解放されたい方は、多焦点眼内レンズの選択することにより、裸眼で快適に生活を送ることが期待されます。

2. 眼鏡を使用する頻度が減らせることが期待できます
単焦点眼内レンズでは、手術後の眼鏡装用が必要になりますが、多焦点眼内レンズでは、あらゆる距離に焦点を合わせることが可能なため、日常生活の多くの場面で眼鏡を使用する頻度が減らせることが期待できます。
多焦点眼内レンズが向いている方
- ✓可能な限り眼鏡を使用したくない方
- ✓多少の見え方の質(ハロー・グレア・スターバースト現象等)はあまり気にしない方
- ✓細かいことはあまり気にならない方
- ✓日常生活の中で、近くの細かい作業が少ない方

多焦点眼内レンズのデメリット
1. コントラスト感度(見え方の質)の低下
コントラストとは色の明暗や濃淡の対比のことで、コントラスト感度が高いと色の明暗や濃淡の違いがはっきりわかります。多焦点眼内レンズでは、目の中に入った光を100%利用できないため、コントラスト感度が低下し、色の明暗や濃淡をはっきりと感じられなくなる可能性があります。
2. 夜間のハロー・グレア・スターバースト現象

ハロー(光の周辺に輪がかかって見える症状)やグレア現象(夜間に光を見た際にまぶしい、光がぎらついて見える現象)、スターバースト現象(光に放射状の線が見える)が、多焦点眼内レンズの複雑な構造的性質から認めやすいと言われています。
術後慣れない方も、時間の経過により半年程度で改善する方が多い傾向にあります。夜間の運転が多い方は注意が必要です。最近では、ハロー・グレア現象が起こりにくい多焦点眼内レンズも登場しています。
3. 治療費が高額になる
単焦点眼内レンズは保険適用ですが、多焦点眼内レンズは保険適応外のため費用は高額になります。通常の保険適応による白内障手術の費用に加えて、多焦点眼内レンズ挿入のためのレンズ代・検査代・説明代が、保険適応外費用(選定療養費)として別途必要になります。
●選定療養
白内障手術の費用(保険適応)
+
多焦点眼内レンズ等の費用のみ自己負担(保険適応外費用)
4. 神経質な性格の方や80歳を超える高齢者の方は注意が必要
多焦点眼内レンズでは、脳が見え方に慣れるまで時間を要したり(脳内適応)、認知機能が低い方(特に80歳以上の高齢者)は、脳が見え方に順応できず満足のいく見え方が得られない可能性があります。ご自身の年齢や性格面も踏まえて眼内レンズを選ぶことが大切です。

多焦点眼内レンズが向いていない方
- ✓手術前の白内障の程度が強くない方(術後見え方の質が気になりやすい)
- ✓夜間の車の運転が多い方
- ✓見え方の質にこだわりがある方
- ✓神経質な方
- ✓日常生活の中で、近くの細かい作業が多い方
- ✓80歳以上で認知機能の低下がみられる方
- ✓他の眼疾患がある方(重症ドライアイ、角膜不正乱視、緑内障、加齢性黄斑変性、網膜前膜等)

多焦点眼内レンズを用いた白内障手術で当院が大切にしていること
1. 高次収差測定による多焦点眼内レンズ決定
収差とは、簡潔に表現すると“ピントのずれ”です。収差には、低次収差と高次収差があります。低次収差には近視、遠視、乱視があり、高次収差は、眼鏡やコンタクトレンズ、眼内レンズでは改善することができないピントのずれを表します。この高次収差は悪くても、目の病気として認識されないことが多いため、高次収差を計測できる検査機器を設置している眼科は多くはありません。ただ、高次収差が悪い方が、通常の多焦点眼内レンズを使用すると、コントラスト感度が低下するために、ぼやけが強くでてしまい、近方も遠方も見えにくいことがあります。
白内障手術においてレンズの種類決定には、高次収差の測定が重要であると考えます。当院では、多焦点眼内レンズの手術を検討される方には、NIDEK社 OPD scan IIIを用いて高次収差を測定し、多焦点眼内レンズの種類を決定しております。
2. 最新のバレットユニバーサル2による眼内レンズ度数計算測定
白内障手術において、眼内レンズの度数を決定するためには、目の長さ(眼軸長)と黒目のカーブ(角膜曲率半径)を計測し、その数値に眼内レンズの度数計算式を当てはめて度数計算します。この際に重要なのがレンズ計算式です。レンズ計算式は時代とともに進化しており、当院では、最新のバレットユニバーサル2(Barrett Universal II)を採用しております。当計算式は、以前よく使用されていましたSRK/T式と比較して、個人の眼軸長や角膜の影響を受けにくく、特殊な補正も不要の有用性の高い計算式です。
当院で取り扱っている多焦点眼内レンズの紹介
Clareon Pan Optix(3焦点自然視覚レンズ)

Pan Optix(パンオプティクス)は国内で初めて承認を受けた、回折型の3焦点眼内レンズです。
特にパソコン作業や料理に必要な60cmから、読書やスマートフォンに適した手元40cmまでがよく見えるレンズです。遠方(1m以遠)、中間(60cm)、近方(40cm)にピントが合い、幅広い距離をカバーできるため、日常生活においてメガネやコンタクトレンズへの依存度が低減すると言われています。また、瞳孔径(目の大きさ)による見え方の不安定さも軽減され、ハロー・グレア現象を抑える工夫が為されています。実生活に即したバランスの良いレンズです。レンズの形状から安定性が高く、乱視の強い方にも適応が可能です。ただし手元30cmの視力はやや劣ります。
Clareon Vivity(焦点深度拡張 自然視覚レンズ)

Clareon Vivity(クラレオン ビビティ)は、2023年に厚生労働省から認可されたアルコン社の最新型「波面制御型焦点深度拡張レンズ」です。
遠方から中間までの距離を連続して見れること、コントラス感度(見え方の質)において単焦点眼内レンズと同等の自然な見え方が可能で、圧倒的なクリア感を得ることができます。またハロー・グレアがかなり抑えられたレンズデザインとなっており、夜間の運転をされる方には非常に適しています。
近方(30~40cm)は実用的な視力を得ることができるとされていますが、手元は眼鏡をかけてもよいと思える方がオススメです。両眼白内障手術のうち、片眼を「Clareon PanOptix」、もう一方の片眼を「Clareon Vivity」という組み合わせで眼内レンズを選択するケースもあります。
TECNIS Odyssey(焦点深度拡張 連続焦点レンズ)

テクニスオデッセイ(TECNIS Odyssey)は、日本では2024年11月に発売されたアメリカ ジョンソンエンドジョンソン社の最新の多焦点眼内レンズです。高精度の眼内レンズの表面設計で、遠方から近方のスムーズな見え方を維持したまま、テクニス シナジー(TECNIS Synergy)の課題点であったハロー・グレアの低減を実現しています。
近方は手元40cmからとなっているため、近方の見え方を重視される方は若干物足りなささを感じるかもしれません。手術後の屈折のズレに対しても許容性があり、挿入した患者様の93%がどの距離でも眼鏡を必要としないという報告もあります。
多焦点眼内レンズの情報提供
いつまでも〝見える”喜びを ~ 白内障手術で、再びあの頃のように ~
白内障手術を受けた患者様に、手術前後の見え方の違いや、手術中の実体験、一生に一度の機会である眼内レンズ選択と、術後の快適な暮らしについて語っていただきました。是非ご覧ください。
患者様インタビュー
白内障手術解説ムービー
SMART Educator
SMART Educatorは、白内障や手術について説明し、眼内レンズの選択肢を掲示するためのツールです。
